MDP DEEP DIVE

MDP技術の可能性

BOSSコンパクトの中で型番の最後に「X」がつく製品には、「MDP」という最先端の技術が使われています。これは「Multi-Dimensional Processing」という言葉の略で、「多次元的信号処理」を意味します。従来のエフェクト技術では得られなかった新たな表現力を生み出すこの独自の先進技術についてご紹介します。

Stompboxes

ギターの多彩な表現力

BOSSでは創業から40年以上、楽器の音、特にギター・サウンドに関わってきました。時代が変わりテクノロジーは進化しても、BOSSが一番に追い求めてきたものは常に変わらず、ギター・サウンドをより良くすること、ただそれだけでした。最新技術を使った最先端の「良い音」について考える前に、まずは「ギター・サウンド」の基本的な成り立ちについてあらためて考えてみましょう。

「ギター・サウンド」と一口に言ってもイメージする音は人によって様々だと思います。クラシック・ギターの端正な音色やフォーク・ギターのキラキラしたアルペジオ、ホロウ・ボディのギターによる甘くジャジーな音色にブルージーなクランチ・サウンドのチョーキング、メタルの速弾きに多弦ギターの低音リフ・・・。これらは非常に多彩なギターという楽器のほんの一部の音色です。楽器や弾き方によって音色が変わるのはもちろん、弦やピックの種類、弦高などのセッティングによっても音色は大きく変わります。さらにエレクトリック・ギターになってくると音色を変える要素はさらに増えます。ピックアップやボリューム・ポット、配線などの電気的パーツに加え、シールド、アンプ、さらにはエフェクターまで含めると、ギターに出せない音色は無いとも思えてくるほど極めて表現力豊かな楽器です。

ギターにおける音の3要素

音が大きく3つの要素に分けられることは、「音の3要素」として学校の授業で学習します。[fig.1]の通り、「音の高低」(=ピッチ)、「音の大小」(=レベル)と「音色」の3つですが、それぞれが「時間的に変化」していることも見逃せません。また「音色」というのは倍音(オーバートーン)成分の違いによるものです。これをエレクトリック・ギターの場合に当てはめてみましょう。

音の高低

これはピッチ(音程)のことになりますから、低音弦と高音弦、さらに押さえているフレットのポジションで変わります。もちろん、トレモロ・アームもピッチを変化させます。

音の大小

ギターのボリューム・コントロールだけでなく、ピッキングの強弱も含まれますし、ピックアップの出力や弦のゲージでも変わります。

音色

ギターのメーカー/モデル、使われている材質や塗装、ピックアップの種類やポジション、トーン・コントロールから、ディストーションなどのエフェクターなど、様々な要素があります。さらにピッキングの仕方などでも変わりますが、 特に歪んだ状態では倍音の構成も大きく変わります。

fig.1
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ギターの表現力に関わる様々な要素

これ以外にもピックの種類や指弾き、異弦同音、弦の種類(材質、巻弦/プレーン弦)、ケーブルなどまで含めれば、限りなく要素があります。またこれらはすべてが、お互いに影響しあっていますし、[fig.2]の通り、発音してから音が消えていく(減衰)までの時間的な変化によっても動的に変化します。低音を弾いた時と高音を弾いた時では倍音成分自体が異なります。ピッキングしてから音が減衰していく間には音量だけでなく、音色も変わっていきます。エフェクターによる歪みサウンドの場合であれば、ギター側のボリューム操作やピッキングの強弱は音量よりも歪み具合、つまり音色に与える影響のほうが大きくなります。そして弾き方の違いなどによる音色の変化が、「抑揚」の変化として音楽的な表現において大きな意味を持つのです。
これは極端に言ってしまえば、音量の大きい小さいよりも、強い弱いというエネルギー感の方が音楽的な抑揚表現において重要だということです。クラッシュ・シンバルを強く叩いた音は、どんなにボリュームを絞っても「強い音」ですし、反対にスティックのチップ(先端)で弱く叩いた音は、ボリュームを上げても「弱い音」のままで「強い音」にはなりません。ギター・サウンドの世界では「音の3要素」どころか、本当に様々な要素が絡み合って成り立っていて、その変化が“気持ち良い音” として音楽的な表現の重要な部分となっているのです。

fig.2
fig.2

各要素に最適化された処理

従来の技術では全ての要素を一括し、すべてに対して同じ処理しかできませんでした。そのため、あるポイントでは最適なエフェクトが得られても、数ある要素のうちいくつかが変化すると同じように最適とは言えない場合がありました。例えば、低音弦をミュートして激しく刻むリフに最適な、低域がタイトで粒が揃った歪みのまま中高域で単音リード・フレーズを弾くと、音の太さが足りず、またピッキングによる表情もつけにくくなりがちです。特定の要素に処理を最適化することにより、その要素のいくつかが変化した時に取りこぼされる情報が出てくるわけです。MDPを使った歪みなら、ピッキングの強弱や音域、さらに弦の太さ、コード弾きか単音弾きか、巻弦かプレーン弦かなど無数の要素によって変化するレベル、倍音成分、周波数特性などを細かく分析し、それぞれに最適な処理を施すため、常に最適な歪みが得られます。

[fig.3]はMDP歪みの波形です。従来の場合はスイート・スポットとなる特定の周波数帯域に焦点を当てて設計しているため一部の倍音が表現されていません。たくさんの情報を検出して反映できるMDPでは十分な倍音を表現することができています。この表現力が、レンジの広さ、原音への忠実さ、分離感の良さへとつながっています。

歪みだけではなくコンプレッサーにもこのMDP技術は使われています。[fig.4]はピッキング時の入力信号を基音と倍音に分けて表しているものです。従来方式の場合はアタック時に大きく発生する倍音につられて基音も抑えられてしまいます。MDPの場合は抑えたい倍音のみを抑えるため基音はしっかり残り、芯の残ったより自然なコンプレッションを実現します。

fig.3
fig.3
fig.4
fig.4

音楽的な表現力の追求

[fig.5]は従来の歪みとMDP歪みの、演奏の強弱による倍音構成の違いを比較したものです。従来の歪みでは弱く弾いた時には倍音成分が失われ、強く弾いた場合には逆に高域の倍音に原音には無い濁りが生じています。MDPの歪みは弱く弾いた場合でも原音と同じ豊かな倍音を含み、さらに強く弾いた場合には、分離感の良いクリアな高域の倍音と低域の厚みを両立しています。

このような自然な変化が楽器やプレイヤーの個性による音楽的な表現力を生み出すのです。そのためには、瞬時に入力信号を分析し各要素に分解、膨大な処理を同時進行で行う高度な技術だけではなく、各要素の時間的変化に応じて処理も変化させることが必要になります。アタックから減衰していく時間的変化の中では、それぞれの要素のバランスも大きく変わります。ピッキングした時のアタック部分と、それが減衰していく途中の部分では、倍音構成のバランスや各周波数帯域の減衰の仕方が異なるため、レベルだけでなく音質も全く違ったものになります。

fig.5
fig.5

各製品の開発にあたり、このMDP技術は数々のエフェクト開発に関わってきたBOSSのエンジニアが、実際に世界中のトップ・ミュージシャンと数多くのテストを重ねながら入念に調整してきました。実際にギターを弾いた無数のパターンをひとつひとつ、常に音楽的で自然な反応が得られるよう何度も合わせ込んだ結果がシンプルなBOSSコンパクトのつまみコントロールに凝縮されています。

[fig.6][fig.7]は歪み系ペダルのDRIVEつまみが行う処理を制御するパラメータが、どのように変化しているのかを表したものです。[fig.6]の従来の歪みペダルではつまみを回すと単純にひとつのパラメータ(歪み)が上がっていきます。対して[fig.7]のMDP歪みでは全く異なる動きをする多数のパラメータが複雑に変化していきます。

fig.6
fig.6
fig.7
fig.7

たった一つのつまみを回すだけでこれだけのパラメータがそれぞれ全く別の動きをし、他の処理や入力信号の変化とも相互に関連しながら、より音楽的で自然な反応が得られるようチューニングされているのです。最先端技術に加え、長年のエフェクト開発で培った膨大なデータと経験、ノウハウを元にした熟練のエンジニアによる調整が、「インテリジェント」と評される気持ちの良い自然な反応につながっています。技術とノウハウ、経験が融合したMDPは、音楽的な表現の新しい世界を切り開くものとして、無限の可能性を秘めているテクノロジーなのです。