Special Interview Special Interview

技 –WAZA CRAFT– 和嶋 慎治(人間椅子)

当代きってのエフェクター・フリークでもある人間椅子の和嶋慎治を招き、
技-WAZA CRAFT-の全モデルを徹底試奏する。 このページはギターマガジンに掲載された『BOSSのWAZA』特集記事を元に作成しています。

和嶋慎治が語る、
技 –WAZA CRAFT–

Wajima talks about WAZA CARFT Wajima talks about WAZA CARFT

僕はエフェクターをいくつも使う場合でも、できるだけギター本来の音は失いたくないんですよ。歪みにしろ、クリーンにしろですね。そこでエフェクターを複数台使う場合に重要になってくるのがバッファだと思っていて、先頭にバッファを入れれば最初に作った音をそれほど変えずにエフェクターをループさせることができます。コンパクト・エフェクターをいくつもつなげる場合も同様ですね。その点、BOSSのバッファはちゃんとギターの音が出るように設計されていると思いますし、だから僕はすごく好きなんですよ。それが、このWAZA CRAFTシリーズではさらに研ぎ澄まされていて、まずバッファの音が良いんです。その一番の例がTU-3Wで、オフの時の音が良いっていうのも変な話に聞こえるかもしれないですけど、それはすごく重要ですよ。もうひとつ思ったのは、どの機種もノイズが少なかったということ。SD-1にしろBD-2にしろ、通常のモデルよりWAZA CRAFTシリーズのほうが格段にノイズが少なくなっています。Metal Zone (MT-2W)ですらノイズがなかったですからね。かといって効果が薄れているかというとそんなこともなく、音はより良くなっていますよ。

それぞれのカスタム・モードも、モア・パワーという感じでしたね。例えば歪みエフェクターだと、もう少しブーストしたいということでモディファイ・モデルなどが流行りましたけど、WAZA CRAFTシリーズは最初から本家本元によるモディファイ・サウンドが搭載されているわけです。さらに、その“ここがこうだったらな”というポイントを、それぞれのカスタム・モードがしっかりと押さえている。ちゃんと求めていることに応えてくれている感じで、弾いていてうれしくなりました。DM-2Wだって、実はそれほど使うわけではないですけど、アナログ・ディレイでもうちょっとロング・タイムがほしかったりするわけです。そこをちゃんと押さえているんですよね。設計者/製作者の矜持というか、使う側のことをすごく考えてくれていると感じました。大量生産されているものは、“ここはこのパーツで抑えよう。ここは良いパーツを使おう”というコスト削減の取り組みを必ずしているわけです。ブティック・メーカーはそのコスト・ダウンをしない代わりにノイズが少ないとか音抜けが良いものを作れているわけですが、それをBOSSという大きなブランドがやるというのは、革新的ですよね。しかもそれで失敗しないというのがすごい。自分でもエフェクターを作っていて思うんですが、良いパーツを組み合わせれば良い結果になるわけでもないんです。経験が浅かったりすると、モディファイが改悪になることも往々にしてあります。

BOSSがやっていることはモディファイから一線を画す、“WAZA CRAFT”というブランドのものになっていると感じましたね。僕らとしても、メーカーならではのちゃんとしたものが欲しいというところもあるじゃないですか。だから、ペダル部の“技WAZA CRAFT”っていうロゴや、ただのシールではなくプレートになっているWAZA CRAFT専用のシリアル・ナンバー表示、銀ネジとかのディテールにカッコ良さを感じるし、これBOSSじゃなきゃできないことだと思います。自分でもエフェクターを作る身なので、エフェクターを買ってもとりあえずジャックや電源回路のコンデンサを替えたりっていうのはついやってしまうのですが、WAZA CRAFTシリーズはやらなくていいなって思いました。改造する必要性がないし、そのまま使うのが一番良い音になるとわかるぐらいしっかりできていましたね。BOSSの通常モデルもしっかりしていると思いますけど、WAZA CRAFTシリーズはさらに丹念に作られている、安心して弾けるシリーズだと感じました。

今回いろいろ弾いてみて、今実際に使っているCE-2Wのほかに、DM-2WやTU-3Wなど欲しいものがいくつかありましたね。DC-2Wも、音楽仲間とか若い人たちとエフェクターの話になった時に“そういえばBOSSからこんなエフェクターが出ているよ”って話題にできそうな楽しみがありました。もちろん元のモデルを知っている方がより感動は深いと思いますけど、最初に買った歪みエフェクターがMT-2Wでも良いと思います。まあ、元のモデルが持っている独特の質感というものもあるでしょうから、元とWAZA CRAFTシリーズと2台持ちで、用途に合わせて使い分けるというのもいいかもしれないです。

開発者に聞く、

Ask BOSS engineer team Ask BOSS engineer team

“技”の由来って
知ってる?

WAZA CRAFTについて

なぜシリーズ名に“技”の文字が選ばれたのでしょうか?
製品コンセプトに合致し、海外でもある程度意味が通じるネーミングは何がよいかと検討を重ねていたのですが、その中で漢字になった際のデザインもクールだという評価が得られた“技”に決めました。
WAZA CRAFTシリーズのコンセプトはどういったものでしょうか?
オリジナルを知りつくした我々だからこそできる、回路全体を再設計したオフィシャル・カスタマイズになります。ひとつひとつのパーツ選定からこだわりを持って行ない、BOSSが持つアナログ技術の粋を注ぎ込んだ、BOSS技術者のクラフトマンシップの結晶ともいえるコンパクト・ペダルですね。
シリーズに共通するパーツの選択基準はありますか?
エフェクターにおいてはパーツの価格が必ずしも音の良し悪しに比例しませんので、実際のサウンドを聴きながら、多くの時間をかけてパーツ選びを行なっていますね。例えば、同じ役割のパーツでも使用する場所によって最適なものを選ぶようにするなど、手間がかかっても妥協せずに追求しています。また、サウンドだけでなくさまざまな環境におけるノイズや安定性なども検証し、確かな部品のみを選定しています。
元になったモデルとは、回路やパーツが違うのですか?
回路全体を再設計しているため、異なります。例えばBD-2Wは企画当初、パーツを変更する程度のつもりでしたが、進めていくうちに細かな部分までこだわりたい気持ちが強くなり、まったくの別回路で再構成することにしました。結果として、設計者の思いどおりにできる完全ディスクリート構成になっています。また、CE-2Wのように過去のモデルのサウンドを搭載している機種は、当時使われていたパーツが入手困難になっていたり、代替品がなかったりします。そういった場合は実機のサウンドを再現するために、現在入手可能なパーツを使用しながら回路的なノウハウ注入するなどして、さまざまなチューニングを加えています。

MT-2W Metal Zoneについて

過去のBOSSエフェクターには、王道のディストーションやオーバードライブが多くありますが、今回あえて強烈な歪みを持つMT-2をWAZA CRAFTシリーズから発表した理由とは?
MT-2は1991年から現在まで販売を続けており、累計の販売台数も第2位となる人気モデルです。一方で、強い個性を持つゆえに食わず嫌いの方もいるのではないかと感じていました。今回、WAZA CRAFTシリーズとしてMT-2Wをリリースすることで、Sモードでは本家Metal Zoneサウンドの魅力の再認識を、Cモードでは新たに加わった表現力の高さを楽しんでほしいと思っています。
MT-2のあの強烈な音色はどのようにして作られているのでしょう?
MT-2には2段階でゲインをアップさせるデュアル・ステージ・ゲイン回路というものを搭載しています。具体的には初段で強烈にミッド・ブーストを行ない、後段でさらにドライブさせることでユニークなサウンドを作り上げています。この回路には、ドラスティックにサウンドを変化させるフィルターを組み込んでおり、それがMT-2の個性的な音色につながっています。
MT-2、MT-2Wともに、ミドル・レンジのイコライザーはパラメトリック・タイプとなっていますが、どのような狙いがあるのでしょうか?
ご存知のとおり、ギター・サウンドにとってミドルは非常に重要な要素です。多彩なサウンド・バリエーションを実現するために、そのミドルを自在にコントロールできるようにしました。
音色面では、オリジナルのMT-2とMT-2Wのスタンダード・モードでは、どのような違いがありますか? 歪み量は同じですか?
デュアル・ステージ・ゲイン回路をディスクリートで構成したことで、よりアタックがはっきりとしたサウンドになり、またノイズも少なくなっています。さらにバッファも他のWAZA CRAFTシリーズに搭載し好評をいただいている高品位なものに一新されました。歪み量はほぼ同じですね。
オリジナルのMT-2とMT-2Wでは、基本的な回路、構造、パーツは同じですか?
他のWAZA CRAFTシリーズ同様、回路全体を再設計しリファインしています。
新たに搭載されたカスタム・モードでは、どんな音色を狙いましたか?
現在の多様化したシーンに向けて表現力を増し、ダウン・チューニングや多弦ギターの低音弦でも輪郭を失わない鋭さとタイトな低音域を兼ね備えた、より現代的なハイゲイン・サウンドになっています。表現力という点で注目してほしいのが、ギターのボリューム操作への追従性です。ボリュームを下げた時に、クリアなクランチにすることも可能なんです。ハイゲイン・ペダルでここまでリニアに変わるものはあまりないのでは、と思います。
開発で最も注力したのはどのような部分でしたか?
さまざまな要素を再設計し直す過程での多岐にわたる調整でしょうか。ひとつの例として、デュアル・ステージ・ゲイン回路をディスクリート構成としていますが、MT-2WではBD-2WやSD-1Wなどで採用された回路とは異なる構成を採用しています。単に過去に採用した構成を踏襲するだけでは、理想的な音色やレスポンスを得られないためです。ディスクリート構成のメリットはこういった部分を詳細にデザインできることで、これらを最適に調整する作業に注力しました。
カスタム・モードでは具体的にどのようなことが切り替わっているのでしょうか? また、それは音色的にどのような効果を生むのでしょうか?
各部のフィルター特性を調整することで、よりワイドレンジで自然なハイゲイン・サウンドに仕上げました。またMIDDLEはQを狭め、より狙いたい帯域を的確につかめるようにしています。

DC-2W Dimension Cについて

過去に数多くある名作の中でも、DC-2を復刻した理由は?
Dimension は空間的な広がりを演出する唯一無二のエフェクトで、現在でも十分に通用するサウンドかと思います。多くの人にDimensionサウンドを体験していただきたいという思いが強く、DC-2Wのリリースにいたりました。またWAZA CRAFTシリーズ発売以降、多くのお客様からDC-2の要望をいただいたのも理由のひとつです。
揺れないコーラス”などと称されることの多いDC-2ですが、実際はどのような効果を作るエフェクターなのでしょうか?
コーラスがいわゆる“合唱”効果を得るのに対して、Dimensionは空間的な広がりを演出することが目的です。回路的にもコーラス同様にBBDを使用していますが、Dimension独自の回路構成となっています。
DC-2Wのエフェクト部分はBBD素子を使ったアナログ回路と聞きます。あえてコストのかかるアナログ回路を再現するメリットとは?
確かに最新デジタル技術によって音色をほぼ再現することは可能ですが、今回は名機の音を完璧に再現したかったのと、現状では品質の良いBBDが入手できるようになったので、BBDを使用することにしました。
各ボタンを同時にONにすることでどのような効果が得られるのでしょうか?
効果の深さをコントロールしています。SDD-320モードでは空間的な広がり具合もコントロールしていますね。
DC-2はボタンのみで操作するという、非常に珍しい仕様となっています。当時、なぜそのような仕様で発売されたのでしょうか? また、その仕様をDC-2Wで、あえてそのまま再現しようと考えたのはなぜですか?
Dimensionは内部的にはパラメータが非常に多く、また効果的な空間的広がりを得るためには設定も容易ではありません。そのため簡単に最大の効果が得られるようプリセット選択方式を採用しました。このユニークなUIはDimensionを象徴するものと考えており、DC-2Wでも採用しています。ただし、そのまま再現したわけではなく、ボタンのON/OFFがわかるようにLEDを追加したり、耐久性を考えて電子式に変更したりしています。
音色、回路に関して、DC-2とDC-2Wで意図的に変更が加えられた点はありますか?
基本的なサウンド・キャラクターは一緒ですが、回路は全体を作り変えて再構築しています。また、DC-2ではできなかったボタンの2個押しが可能になっています。Sモードだけでも10音色、SDD-320モードを加えると20音色を切り替えることが可能です。
カスタム・モードであるSDD-320モードは、どのような音を狙ったものですか?
そもそもDC-2とSDD-320は効果のかかり具合がまったく違うのですが、聴感上はSDD-320モードのほうが、高音域がきらびやかに聴こえます。特にボタン4のサウンドはオリジナルSDD-320のボタン4の色が違うことからも示唆されている通り、唯一無二のサウンドになります。DC-2Wでも再現しているので、ぜひ試していただきたいです。
開発で最も注力したのはどのような部分でしたか?
DC-2、SDD-320はその効果を作り出している回路自体が異なるため、2機種分の回路をひとつのコンパクト・ペダル内に再現する必要がありました。2機種分の回路を再構築し、かつ音色を再現するということに注力しました。

* 文中記載のアーティスト名、会社名および製品名などは、各社の登録商標または商標です。本ページでは各製品のサウンドを適切に表現するために、アーティスト名、会社名および製品名などが引用されています。

  • BD-2W BD-2W
    Blues Driver
  • SD-1W SD-1W
    SUPER OverDrive
  • DM-2W DM-2W
    Delay
  • CE-2W CE-2W
    Chorus
  • VB-2W VB-2W
    Vibrato
  • TU-3W TU-3W
    Chromatic Tuner
  • MT-2W MT-2W
    Metal Zone
  • DC-2W DC-2W
    Dimension C
BD-2W

BD-2W Blues Driver

SHINJI'S VERDICT ファットなのに音抜けが良い

まず思ったのはノイズの少なさですね。オリジナルのBD-2は“パキン!”とした抜けの良さが印象深いんですけど、これも非常に音抜けが良いです。特にBD-2Wはハイが全然痛くないですし、一般的なオーバードライブみたいに中域がムムっと来るのではなく、全体がガン!と出て来る感じですね。

BD-2が登場する1995年以前の歪みエフェクターは、例えばディストーションはすごく歪むんですけど、うまく使わないと音が抜けなくて何を弾いているかわからなくなってしまう。オーバードライブはソロとかで使うには良いんですけど、歪まないアンプに使うとやっぱりもの足りなかったりする。それが、Blues Driverは歪みも充分なうえに音抜けも良い。これ単体で真空管アンプみたいな音が出せるエフェクターですよね。ディストーションでもオーバードライブでもない、ひとつのジャンルだと思いますし、BD-2の登場は革命的だったと思います。

スタンダード・モードでゲインを下げれば、ほとんど音が変わらなくて、ギターの音そのものに忠実ですね。ギター側のボリュームにもしっかり反応してくれて、下げれば歪みが減るんですけど、ハイはしっかり残る。つなぎっぱなし、オンにしっぱなしで使えるエフェクターです。ツマミは全部真ん中で良い音ですし、ギターに合わせてちょっと足したり削ったりすれば良いと思います。何も考えずにつなぐだけで良いっていうのは、実はすごいことですよ。これ1台、この音って感じで行きたい人向きな、硬派なエフェクターだと思います。カスタム・モードは少しゲインが上がりつつ、ロー・ミッドも出てきますね。Blues Driverと言えば激しいロックで使うイメージはあまりなかったんですけど、このカスタム・モードならば70年代のハードロックとかもいけます。ファットなのに音抜けが良くてコードもキレイに出る。弾いていて爽快ですし、僕はこのモードのほうが好きですね。

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BD-2 Blues Driver / 1995年 - 発売中

BD-2W
ペダル史に輝き続ける蒼き歪み

伝説的な扱いを受けるOD-1を始め、BOSSはSD-1、DS-1、MT-2など、歪みエフェクターの中でいくつものエポック・メイキングを創り出したのち、畳み掛けるかのように95年3月にBD-2を発表した。当時、オーバードライブのジャンルは現在ほどバリエーションに富んでおらず、基本的にはアンプの音色ありきで使われるブースターのようなものが多く、逆にアンプを問わずに単体での十分な音作りが可能な機種はむしろ少数だった。そこに突如として現われたのがBD-2である。BD-2の最大の持ち味は、アンプのようなタッチ・ニュアンスの高い再現性と、最小ゲインから最大ゲインまでの幅広さからなる絶対的な汎用性の高さと言える。わずかに歪ませる程度のセッティングであれば、真空管アンプのように右手の強弱で歪み量をコントロールすることができ、激しく歪ませても右手のニュアンスがなくなるようなことはない。その逆に、ブースターとしても使えるまでゲインを下げることもできる。その内部回路はアンプの設計理念とも通ずるものがあり、それゆえに実現された音色だろう。

SD-1W

SD-1W SUPER OverDrive

SHINJI'S VERDICT 色気のある帯域が持ち上がる

SD-1は初期モデルを使っていたことがあるんですけど、とにかくハーモニクスと倍音の出方がほかのオーバードライブとは違うんですよ。ダイオードを奇数で入れた非対称のクリップ回路というのもあるんでしょうけど、サステインを伸ばした時に倍音がフィードバックしているような感じが出るんです。皆が良いっていうのもわかりますね。このスタンダード・モードもその感じがあって、音の後ろに倍音がうっすらとキレイに出ている。これはSD-1ならではで、ほかのオーバードライブだとそれが聴こえないんですよ。

あと、SD-1と言えばオペアンプで僕らはその独特な“イナタさ”をオーバードライブだと思っていたわけですけど、それをディスクリート回路で再現しているというのもすごい。その回路のおかげかノイズがかなり少ないっていうのも良いですね。一方のカスタム・モードはもっとパンチがあるというか、歪みも増えていますね。ただ、単にゲインが上がるだけでなく、ギタリストが“こういう音が好きなんだ”って思う、色気のある帯域が持ち上がっている印象で、すごく良いです。

歪みを減らしても良い感じですけど、単にブースターとして使うのはもったいない。このモードを使っちゃうとスタンダード・モードが少しもの足りなく感じてしまうほどですね。今の若い人たちは、いわゆるスタンダードなオーバードライブは“イナタい”って思っちゃうかもしれないですけど、このカスタム・モードは色気を感じる帯域を出すことで、その“イナタさ”を抑えているのかもしれない。オーバードライブはローが上がるというよりはミッドとハイ、その倍音感が魅力で、そういう意味ではソロを弾きたい人が好きなエフェクターですね。このカスタム・モードは、まさにその気持ち良い帯域を出してくれるモードだと思いました。

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SD-1 SUPER Over Drive / 1981年 - 発売中

SD-1W
日本が世界に誇るロック・トーン

SD-1の発売は81年。つまり、現時点ですでに40年近くも生産、販売が継続されているモデルだということがわかる。SD-1が発売された81年といえばレッド・ツェッぺリンの解散からまだわずか1年、音楽以外の身近な話題をあげるとすれば、1,000円札にはまだ伊藤博文が印刷されていた年である。その頃から現在まで、SD-1は基本設計を変えていない。さらには、当時のSD-1が今も現役で使われていることすら少なくない。身の回りのものを見てもわかるが、同様の例は他業界でも多くはなく、SD-1の楽器としての魅力、工業製品としての完成度の高さを証明していると言えるだろう。

基本的な設計はOD-1を発展させたという考え方に近く、真空管アンプのドライブ・サウンドを意識した非対称型のクリッピング波形を作るオーバードライブ回路と、高域のバイト感を調整するアクティブ型のトーン・コントローラーが最大の特徴である。まだファズに近い原始的な歪みが多かった当時としては珍しい、高いピッキング・ニュアンスの再現性と、ギターの必要な帯域にフォーカスされたレンジ感は、単体で使用して得られるサウンドだけでなく、真空管アンプの歪みをブーストする使い方にも長けており、ハードロックやメタルなど激しいサウンドを必要とするジャンルのギタリストにも愛用された。

DM-2W

DM-2W Delay

SHINJI'S VERDICT これは買います

まず驚いたのはオンにしたときに原音が変わらないこと。ゲイン落ちもないですし、逆に大きく聴こえるぐらいです。それと、カスタム・モードではアナログ・ディレイなのに800msまでいけるのがすごい!てっきり600msが限界かと思っていましたが、さすがはWAZA CRAFTですね。

そしてアナログ・ディレイと言えば、まず試すのがちゃんとフィードバック(発振)するかなんですが、これは文句なしです。中にはツマミをいくつか動かさないとフィードバックしないディレイもあるんですが、これはINTENSTYを動かすだけで簡単にできる。僕はフィードバックのためだけにでもアナログ・ディレイが欲しいんですけど、これはあとで買います。

リピート音もちゃんと温かくなまっていきますし、それがまた良いですね。アナログ・ディレイを使っている人はみんなそれを求めているわけですし。僕もいくつか持っているんですが、中にはモジュレーションなどをオフにしても、どうしてもわざとらしいアナログ感になっちゃうものもあるんです。それに比べてこれはすごく素直で、買うならこれで間違いないとさえ思います。

カスタム・モードの800msは、改めて試してみるとこんなに長いんだって感じでした。実際に800msに設定して使うことはあまりないんですが、例えば効果音的なプレイをする時などは、これぐらい長いほうが合っていたりするんです。僕もよく、スライド・バーを使ってピンク・フロイドっぽいノイズを出したりするんですが、デジタルだと音がキレイに残ってうるさくなってしまう。それをアナログ・ディレイの音色でできるというのはありがたいですね。それと、これもノイズがないんですけど、これって当たり前じゃないんですよ。アナログ・ディレイはどうしてもノイズが出ちゃうんですけど、これには脱帽ですね。

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DM-2 Delay / 1981 - 84年

DM-2W
あまりにも音楽的なアナログ感

DM-2はコンパクト・シリーズ初のディレイで、発売開始は81年。デジタル・ディレイの登場以前に普及していた、アナログ回路のディレイだ。デジタル・ディレイがデジタル・メモリーを使ってディレイ・エフェクトを作ることに対し、多くのアナログ・ディレイはBBDという信号を遅延させるIC部品を使い、ディレイ効果を作っている。そのBBDを通った信号は大きく劣化してしまうのだが、その劣化こそがDM-2が持つ、まろやかで音楽的な音色を形作っているのだ。デジタル・ディレイとは真逆の個性を持ったその音色は、テープ・エコーなどにも通じる類の魅力を持っているとも言えるだろう。しかし、そのサイズはエコー・マシンの数十分の一であるのだから、当時にどれだけ喜ばれたかが容易に想像できる。また、当時のBBDは特に低電圧下での安定性が悪く、ほかの多くのメーカーが複数の電池やコンセントから電源を必要としていたことに対し、DM-2は9V電池での安定した動作を実現していた。BOSSのホスピタリティの高さを感じさせる点である。デジタル・ディレイのDD-2が登場したあともDM-2の生産は継続されたが、84年には後継モデルのDM-3にその座を譲り、生産完了。しかし、原音を引き立たせるかのようなサウンドは、現在でも多くのプレイヤーを虜にしたままだ。

CE-2W

CE-2W Chorus

SHINJI'S VERDICT この音に導かれて曲ができた

コーラスと言えば、僕の中ではJC-120に内蔵のものとCE-1というイメージで、このCE-2Wは僕も持っているんですが、コーラスに加えてCE-1のVibratoモードを使いたくて入手したんです。このビブラートは極端に音程が変わるわけではなく、すごくキレイにかかるんですよ。このVibratoモードは、やっぱりクリーン系のサウンドで使ったほうが良いと思いますね。

レコーディングでもよく使っていて、「雪女」(『怪談そして死とエロス』収録)のアルペジオはこのエフェクターを買ったことで思いついたんですけど、曲ができてから合うエフェクターを使うのではなく、エフェクターに導かれて曲ができるっていうのは、良いエフェクターの証だと思います。このCE-2Wはまさにそう感じさせてくれる1台ですね。

コーラスはスタンダード・モード(CE-2モード)が、いわゆるコーラス臭さがあまりなくて使いやすいですね。CE-1のChorusモードが、もっとこってりした感じなのに対し、無化調というか、爽やかな感じです。いかにも“コーラス!”って感じがあまり好きじゃないっていう人はスタンダード・モードで、DEPTHは深めだけどRATEは遅めといった設定で空間を広げるっていうやり方が良いと思います。今回はアンプのセンド&リターンに接続して試してみましたけど、このスタンダード・モードはインプットにつないで歪みに独特の揺れ感を加えるっていうのもアリです。あと、実感したのは音抜けの良さですね。Vibratoモードもそうなんですが、バンドで使うと原音よりエフェクト音のほうが大きく感じるぐらい抜けてくるんです。音の輪郭がしっかりしているからだと思うんですが、よくできていますよ。僕はアンプ1台で使っていますが、アンプが2台あればステレオで出力して、JC-120みたいにフワッとした感じが出せると思います。

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CE-2 Chorus / 1979 - 82年

CE-2W
シャープな高域と濃厚な中域

時は1976年、今でもスタジオ常設機器として大定番であるギター・アンプ、ローランドのJC-120からChorusエフェクトのみを抜き出す、というコンセプトで生まれたCE-1 Chorus Ensembleは、BOSSブランド初のエフェクターとなった。CE-1の発売当時、まずはキーボディストを中心に人気を博し、それが飛び火するようにギタリストたちにも認知された。そしてそのCE-1の発売から遅れること3年、ギタリストたちには待望となる、BOSSコンパクト・シリーズで初のChorusペダルとして発売されたのがCE-2 Chorusだったのだ。Chorusエフェクトを作るメカニズムはCE-1を踏襲しながら、回路の入力段をギター向けに再構成し、ノイズ処理も大きく強化された。また、入出力系統はモノラル仕様(CE-1はステレオ出力仕様だった)とし、サイズがCE-1の1/3以下にまで縮小されたCE-2は言うまでもなく、ギタリストたちに歓迎され大きなヒットを記録した。回路をコンパクト化するにあたって凝らされたさまざまな工夫は、結果としてシャープな高域と濃厚な中域を両立した、CE-1とはまた異なる特徴的な音色を作り出し、それが現在でも愛される要因となっている。当時、CE-1とCE-2が併売され続けたことからも、両者の魅力が違った点にあったことが窺い知れるだろう。

VB-2W

VB-2W Vibrato

SHINJI'S VERDICT 古いSF映画のUFOが出す音

これはモードが3つあるんですが、かなり高度なスイッチだと思いました。もともとあるLATCHというモードはオフの時もBBD素子を通っていて、つないだ時に音が微妙に揺れていたのでオヤッと思ったんですが、それをあえて残したというのがとてもおもしろいです。どのモードを選ぶかは個人の好みだと思いますけど、僕はオフ時にはBBD素子を通らないBYPASSというモードが好きですね。

このモードだとオンになってからBBD素子を通るので、効果の始まりがハッキリしちゃうんですけど、僕は“あっ、かかった!”ってわかるほうが好みなので。ただ、曲中で自然にかけたいならLATCHモードのほうが良いかもしれないです。それと、使いこなせればかなりおもしろそうなのが、踏んだ時だけオンになるUNLATCHモードですね。飛び道具にもなりますし、何か不吉なことをやりたくなります(笑)。これも常にBBD素子を通っているモードなんですけど、全然気にならないですね。いずれにせよビブラートをかけっぱなしということはないはずですし、使う曲の時にモードを選べば良いと思います。

効果としては、ビブラートはすごくシンプルなエフェクターで、スタンダード・モードでさりげなく使うこともできるんですけど、コントロールではRISE TIMEというツマミがポイントですね。速めの設定にするとUni-Vibeのようなうねり方をして、ピッチもかなりズレます。エグいビブラートが好きな人なら試してほしいです。特にカスタム・モードはかなりエグいかかりで良いんじゃないでしょうか。これもUNLATCHモードで使うと、幽霊が出てきそうというか、古いSF映画のUFOが出す音というか、変な効果音も出せますね。大人が子供に戻れるエフェクターだと思います!

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VB-2 Vibrato / 1982 - 86年

VB-2W
使用お断りの場合も!?

“ご使用をお断りする場合も、あります。”という、不可解なキャッチ・フレーズのもと、VB-2は82年に発売された。VB-2のコンセプトは、最も簡潔に言えばCE-1のVibratoチャンネルの音だけを抜き出した単体機というもの。弾いた音のピッチを任意の速さで周期的に変化させる、まさしくVibratoのモデル名にふさわしいエフェクトであった。そのピッチ変化は電子回路が作っているとは思えない非常に滑らかなものであったうえに、フットスイッチを踏んだ瞬間に音が切り替わるのではなく、徐々に音が揺れていくモードも搭載されたため、ハンド・ビブラートとの違いを聴き分けることは困難なほどであった。つまりは、VB-2は熟練された左手の動作が作り出すビブラートをほぼ完璧に再現してしまい(しかも82年当時にアナログで)、それは“そんなエフェクターがあったらビブラートの練習をしなくなってしまうのではないか?”という懸念を生むレベルのものだったという。しかし、一転してその懸念を先述のキャッチ・フレーズに置き換え、発売されたのである。そのクオリティは世界に認められ、一定の地位を獲得するに至ったが、VB-2の生産、販売はわずか4年のみにとどまった。それは、世界中のギタリストが怠らずにビブラートの練習をしてしまったせいなのかもしれない。

TU-3W

TU-3W Chromatic Tuner

SHINJI'S VERDICT 高輝度モードは即戦力

これはトゥルーバイパスとバッファの切り替えができるんですけど、バッファでもキャラクターがほぼ変わりませんし、オブラートがとれる感じ。確かにちょっとハイが出るんですけど、嫌味がなくて良いですね。後段にエフェクターをつなぐことを想定した感じで、これは相当良いバッファですよ。

いくらトゥルーバイパスのエフェクターだとしても、3つもつなげば音やせしてしまいます。間にスイッチやジャックがいくつもあるわけですからね。どうしたって高域がどんどん削れていく。そういった音やせを防ぐためにエフェクター・ボードのアタマに良いバッファを入れると、ナチュラルなサウンドのままトゥルーバイパスを使えるんです。エフェクターを複数台使うならバッファは必要ですし、これをアタマに入れると良いんじゃないですかね。

それと、音名などの表示が青色のLEDで、チューニングが合うと緑のLEDが点灯する。まずチューニングしている段階で楽しい気持ちにさせてくれますね。高輝度モードにすれば、ステージ上で照明の照り返しが強い時などにもしっかり表示が見えると思います。よくある赤いLEDだと、赤い照明が当たるとまったくわからないんですよ。この高輝度モードは即戦力ですね。あと当たり前と言えば当たり前なんですけど、ミュートがしっかりしている。僕が使っているような機械式のスイッチだと、大音量になるとやっぱり音が漏れてしまうんです。その点これはさすが電子式。まったく音漏れしないですね。ダウン・チューニングがしやすいというのも良いですね。人間椅子は1音半下げで、6弦がC♯なんですが、いつもは音名を思い出しながら合わせているんです(笑)。それがモードを設定して表示される弦に合わせるだけで良いというのはかなり楽ですよ。しかも6半音下でまでできるし、7弦ギターなども当たり前になっている現代においては、まさにぴったりのチューナーですね。

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TU-3 Chromatic Tuner / 2009年 - 発売中

TU-3W
圧倒的なノイズ耐性

現行機種のTU-3は、先代のTU-2からLEDの輝度、精度、感度を向上したうえ、消費電流を抑えることにも成功し、大きなアップデートを経て発売された。多くは知られていないが、STREAM/CENTボタンを2秒間以上押すことで作動する高輝度表示モードも搭載しており、野外でのライブや、照明の多いステージなどでは非常に有効な機能と言えるだろう。
TU-3にはそういった基本的な仕様以外に非常に優れた点がある。それは、ノイズ耐性だ。プロのローディ、ギター・テックの間では周知の事実であるが、TU-3はノイズに関するトラブルが圧倒的に少ない。一般的に、チューナーは多くのLEDを使用しているため、そのLEDの点滅によるノイズが大きく、そのノイズがシステム内の機器に混入してしまうことも少なくない。しかし、TU-3はそのリスクが極めて少ないのだ。精度に関しても、ライブ中にスピーディかつ正確にチューニングするために最適な設計になっている。こういった真の使いやすさを提供するホスピタリティ、そしてコスト・パフォーマンス、これらが示す工業製品としての完成度の高さこそ、日本のBOSSが行なうモノ作りの真骨頂である。

MT-2W

MT-2W Metal Zone

SHINJI'S VERDICT これじゃないと
出せない音が確実にある

MT-2は僕も持っていて、レコーディングでも使ったりしています。エフェクターを自作することもあって、ほぼMetal Zoneというものも作ったことがあるので、その難しさやどこをどう変えたのかもわかりますね。とにかく個性が強いエフェクターです。歪みもクセがあって、“ヘヴィメタルとはこうなんじゃないの?”みたいな音がします。それと、アクティブ・イコライザーでガラッと音を変えることもできるんですけど、増幅回路の初段にもイコライザーが入っているんですよね。コンデンサとかで増幅させる時に特定の帯域だけを持ち上げる回路はあるにはあるんですけど、普通はやらないですよ。それが、Metal Zoneが登場してからは各社がその方法に追随したわけですから、これも革命的ですよね。あとは圧倒的にノイズが少ないです。そこがオリジナル・モデルとの大きな違いかな。やはり歪ませて使いたいエフェクターですし、ノイズがなくなったのは良いですね。これだけ歪ませるとピッキング・ハーモニックスもすごく気持ち良いです。この攻撃的な感じ、これじゃないと出せない音が確実にあります。久しぶりに弾きましたけど、さらにものすごく進化したMetal Zoneという印象ですね。JC-120との相性も抜群です。DISTツマミをさほど上げなくても、こういうクリーンなアンプで使えるっていうのはすごいですよ。

そのうえで特に気に入ったのはカスタム・モードです。出した瞬間にすごい音っていうのがわかりますし、イコライザーの使い勝手はこちらのほうがありますね。“どう設定すればいいんだろう?”とか、“とっつきにくい”という感じがないんですよ。これまでMetal Zoneはヘヴィメタルらしく低音弦を刻むズクズク系でしか使えないと思っていたんですけど、このカスタム・モードは音楽の幅まで広げてくれる感じです。Metal Zoneという名称なのにいろいろな音楽に対応してくれそうっていうのはすごいですよ。ギターのボリュームを絞ればクランチまでいけますし、Metal Zoneをクリーン風に使うなんて思ってもいなかったです。スタンダードとカスタム、違うエフェクターが2種、違う回路が1台に入っているような印象すら覚えますね。

セッティングのポイントはやはりディストーションの中にパラメトリック・イコライザーが入っているという点で、特にミッドのどの周波数帯をブースト&カットするかっていうのが肝ですね。ミッドはカットすれば、がっつりドンシャリになりますし、ブーストも少し上げるだけでかなりモコッとしますが、あまりやり過ぎちゃうと迷宮入りしてしまいます(笑)。ブースト&カット量は±15dBということで、ちょっと触るだけでもかなりよく効きますね。僕はスタンダード・モードならばMIDDLEを11時ぐらい。少し削るぐらいが一番気持ち良いです。

カスタム・モードも、やはり僕は中域が好きなのか、あまり削らない設定が好みでした。カスタム・モードにするだけでスタンダード・モードとは中域の出方が変わるので、カットするにしてもMID FREQで好みのポイントを探すほうがわかりやすいかもしれないです。あと、僕もやるんですが、あえて特定の帯域をブーストさせてワウの半止めのような効果を出すのもおもしろいですよ。

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MT-2 Metal Zone / 1991年 - 発売中

MT-2W
漆黒のゲーム・チェンジャー

MT-2 Metal Zoneは、HM-2 Heavy Metalに続き91年に登場。93年に登場したHM-3 Hyper Metalと合わせてBOSSコン・メタル三部作とも称されるが、(MZ-2 Digital Metalizerを加えメタル四天王とする声も、)MT-2の音色はその中でも際立っていた。近年の流行とも言える味つけの少ない原音重視の音作りとは対照的に、MT-2は入力信号に対して加工を重ね、徹底的にメタルな音色へ変貌させる。昨今のオーガニック、ヘルシー志向な音作りに対して、まさに最大のアンチテーゼ、超ハイカロリー系のディストーションと言えるだろう。発売当時、ギタリストたちはそれまで得られなかった強力なサウンドに飛びつき、より激しい、新たな音楽ジャンルすらも確立していった。その結果、MT-2の累計発売台数はBOSSコンパクト・シリーズで第2位(1位はDS-1)にまで昇り、MT-2をフォローする他社製品も続出。ディストーション・ペダル界にゲーム・チェンジを起こしたのだ。のちにML-2 Metal Core、ST-2 Power Stackなどが発売された現在でも、特徴的な音色、多彩な操作系統を備えたMT-2の販売は変わらず続いており、漆黒のゲーム・チェンジャーは今も熱いファンを保持し続けている。

DC-2W

DC-2W Dimension C

SHINJI'S VERDICT まさに“ディメンション(次元)”を
感じます

このエフェクターは初めて試すんですが、まずコントロールがボタンのみというのに度肝を抜かれました。ただ、もともとのDC-2は機械式のボタンだったそうですけど、これは電子式になって、なおかつLEDも新たに付けられたという点に進化を感じますね。パっと見て、こういうコントロールなので音色の設定は決め打ちかと思いましたが、実はツマミ式のコントロールって両刃の剣だったりもするんですよね。最初から“こういう音が作りたい”というビジョンがあればツマミ式も良いんですけど、ビジョンがないまま触り始めるとけっこう泥沼にハマってしまう。そういう意味で、このボタン式っていうのは親切だと思いますね。弾いた感じはコーラスっぽいと思ったんですが、コーラスでこの効果を出せと言われても出せないと思います。何とも不思議なエフェクターです。

中身もコーラスと同じくBBD素子を使用しているそうですが、回路構成はディメンション独自のものだとか。モード・セレクターの1はまだおとなしめでコーラスっぽい感じなんですが、ボタンが2から4となるに連れて効果が深くなるというか、タイムも変わってくる感じになりますね。例えば、CE-2Wのコーラスが無化調だとしたら、これは化学調味料を使っているんだけど、それを気付かせないような技を感じます。“コーラス臭いのはイヤだけど空間を広げたい。でもフェイザーもちょっと違う”っていう人は、これを試してみると良いかもしれないですね。不思議な広がり感がありつつ、イヤな感じの音にはならないですから。すごく繊細なエフェクターなので、歪みよりはクリーンなサウンドに使ったほうが良いと思います。あと、ステレオで出力するとさらに広がって、まさに“ディメンション(次元)”を感じられますね。

SDD-320モードは元になったラック・エフェクターのモードということですが、スタンダード・モードに比べてハイが出ていますし、音も太くなったように感じますね。SDD-320モードは、どれもうまくまとまっている印象です。さすがはラック・エフェクターというか、僕はこちらのモードの方が好きですね。レコーディングの時に、ボーカルやドラムにかけてみるのも良いと思います。実際に僕らもレコーディングでコンパクト・エフェクターをそういう風に使うこともありますし、意外とロックっぽくなったりするんですよ。宅録でもアナログ・エフェクターを通すと音が太くなったりしますしね。どう使っても破綻しないし、可能性を感じるエフェクターだと思います。

あとは、ボタンの2個同時押しができるっていうのもおもしろい。個別の4タイプだけでなく、それらを組み合わせた6タイプ。さらにスタンダード・モードとSDD-320モードがありますので、組み合わせ次第で全部で20タイプの音色を選ぶことができる。それぞれで位相が動くタイムやかかりの深さ、帯域などが変わってくるので、先ほどは親切って言いましたけど、ちゃんと迷宮にハマる楽しみも用意されていたというわけですね。大いに悩んで好きなサウンドを選んでほしいと思います。

僕の好みで言うと、単体で使うならボタン3とボタン4、組み合わせて使うならボタン1とボタン2を基本にして足していくという使い方が好きかな。その組み合わせだと音が太くなっていく感じがするんですけど、単体は単体でやりすぎない感じがあって良いですし、同時押しはちょっと雑味を感じる組み合わせもある。なかなか悩みますね。これは奥が深いです。

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DC-2 Dimension C / 1985 - 89年

DC-2W
根強いファンが多数の“揺れないコーラス”

Dimension Cというモデル名、そしてボタンが4つのみというユニークな操作系統からは、それがどのようなエフェクターであるかを想像するのは困難だろう。コーラスに近い効果なのだが、正確な表現ではない。音の広がりや厚さを作るという点ではコーラスと同様だが、音の揺らぎがほとんどないのだ。その内部構造はコーラスと同じくBBD素子が使われているが、回路構成は本機独自のものとなっており、それが独特の“揺れないコーラス”と呼ばれるサウンドを生み出している。元はミックス、レコーディングなどの現場で活躍したラック型機器、ローランドのSDD-320 Dimension Dのコンパクト版として生まれ、音の広がりを生み出す効果、そしてボタンが4つのみという仕様もSDD-320から受け継いだものだ。なお、元となったSDD-320は複数のボタンを同時に押すと各ボタンの効果をミックスして使用することができたが、DC-2にはその仕様が受け継がれていない。そもそも、ボタンの同時押しは設計したローランドも意図していなかったという。DC-2は85年末に発売されたのち、89年まで生産されていたが、88年にはデジタル回路を使用したDC-3 Digital Dimension(のちにDigital Space Dに改名)が発売されており、Dimensionの歴史は93年まで続いた。